JR川越線の複線化には自治体のある程度の負担が必須か
JR東日本大宮支社の返答としては、毎年のように「利用客数を見る限り複線化の必要性は低い」となっています。確かに、路線全体の平均値としてみると、そこまで急いで複線化をする必要はないのかもしれません。しかし以前の記事にある交通センサスの結果を見れば分かる通り、川越〜大宮間の通過人員は約9万人となっています。これはもちろんJRの単線路線中最大で、川越〜日進間の各駅間の通過人員は全単線路線中のトップ5を独占しています。
とはいえ、全区間においてJR東日本が負担して複線化しろというのはなかなか厳しく現実的ではない話でもあります。
そもそも、川越〜高麗川間の平均通過人員は川越〜大宮間の4分の1以下です。従って、単線が適当であると言わざるを得ません。
また、川越市やさいたま市では線路際までの開発が進んでいる地区もあり、川越市の東西で広大な河川敷を擁する河川を渡っています。
従って、個人的な見解ではありますが、国土交通省の佐々木政務官や大野元裕埼玉県知事の見解にもある通り、自治体が強い意志で決定し、ある程度の負担をして複線化を実現するという方向が妥当であり現実的ではないかと考えます。
自治体と鉄道事業者が協力して行った複線化事例
自治体が一部費用や周辺開発等を負担し複線化を行っている事例がチラホラと存在します。例えば外房線の部分複線化事業や、JR奈良線の第2期複線化事業がそれに相当します。
今回の記事では、事業区間の距離が近く利用客数も近いJR奈良線の複線化事業について、合意形成の流れと費用負担例を調べてみました。
JR奈良線第2期複線化事業概要
JR奈良線第2期複線化事業は、JR藤森~宇治 / 新田~城陽 / 山城多賀~玉水の各駅間にトビトビで残っていた単線区間合計14.0kmの複線化を行う事業です。これに加えて、棚倉駅と六地蔵駅と京都駅の改良工事もこの事業に合わせて行われています。
事業主体はJR西日本で、京都府と京都市・城陽市・木津川市・井手町・宇治田原町の3市2町が複線化の費用負担や駅前整備等で協力しています。
負担費用は自治体のほうが多い
総事業費は397億円で、この中には複線化に加えて六地蔵駅等の構内改良工事の文も含まれています。
この397億円の負担は148.5億円を京都府が、148.5億円を関連の市町が、残りの約100億円をJR西日本が負担する構図になっています。従って、比で表すと3:3:2となり、全体の75%ほどを自治体側で負担しているということになります。
事業主体として設計や工事・運用をJR西日本がまとめて請け負う代わりに、費用の多くを自治体側が負担するという合意のもとの費用負担構造となっているようです。
川越線の複線化もほぼ同じ構図がベターか
荒川橋梁架替が単線で100億程度かかるのではという試算があるので、築堤部も含めた荒川橋梁部だけで200億円の費用がかかると想定しましょう。それ以外の部分でおよそ11キロと考えると、奈良線の例を考えつつ地価や烏頭坂付近の難工事を含めると400億円前後が必要ではないかと思われます。
合計で600億円として、そのうちの100億円を本来の荒川治水工事の計画通り国庫から出してもらうとして、残りは500億円です。同じ比率で行けば、375億円を埼玉県とさいたま市と川越市で、残りの125億円をJR東日本で負担するというイメージになります。375億円の自治体負担分については、半分の187.5億円を埼玉県が、残りの187.5億円をさいたま市と川越市が負担するという形になるはずです。人口比でざっくり割ると、さいたま市が125億円、川越市が45億円といったところでしょうか。
結び
数カ年事業となることを考えれば、自治体負担分も全く不可能ではないと感じる金額です。もちろん細かく試算するとまた色々変わるとは思いますが、頭ごなしに鉄道業者がやれ!職務怠慢だ!と言い合っていても前には進みません。
川越線の複線化によって川越市・さいたま市にもたらされる恩恵は、もはや金額で表せないレベルです。そして埼玉県の中央部と西部の中核都市間の発展によって埼玉県も更に利益を得ることができます。ここに対して税金を投入することを正しい税金の使いみちと言わず、何と表現できましょうか?
そしてもちろん、事業者であるJR東日本も少子高齢化時代において当面の間大きな衰退をしないという保証を得られるばかりか、直近では利益も得られることでしょう。
大野知事は川越市・さいたま市の意向を踏まえてまずは荒川橋梁架替えに関する五者協議会(国土交通省・埼玉県・川越市・さいたま市・JR東日本)開催の打診を行うと明言しています。そして既に川越市は川合市長や川越商工会議所を始め政財界と市民が一致団結して複線化の要望を打ち出し、一方でさいたま市も清水市長が国への提言書等で複線化を踏まえた荒川橋梁架替えをすすめるべきと明言し、両自治体意向はほぼ固まりつつあります。
JR東日本の賢明な判断を、最後に、ここにひとえに望むのみであります。